運動器超音波・運動器エコーの実際
運動器超音波・運動器エコーの実際
超音波検査は整形外科領域でも運動器超音波・運動器エコーとして普及しつつあります。
当院では2010年に超音波検査機を導入し、診断・治療に必須のモダリティ(検査機械)になっています。
一方、検査部位やルーチンの検査手順は殆ど確立されておらず、撮像・診断は検者の力量・知識・経験に大きく左右されます。
整形外科領域のエコー普及の一助となるべく、当院での検査部位やルーチンの検査手順の実際を一部公開することにしました。エコー初心者の整形外科医や検査技師の先生方に、私の拙い知識・技術・経験がお役に立てば幸いです。
肘内障
はじめに
運動器超音波・運動器エコーが有用な病態の例として、最初に肘内障を例として示したいと思います。というのも肘内障のエコー画像が出ない、解らないという質問が最も多いからです。
肘内障の一般向きの解説は日本整形外科学会(JOA)ホームページの肘内障や日本手外科学会「手外科シリーズ 21」にあります。
まずは運動器超音波・運動器エコー初心者向きに長軸1枚の画像を出しましょう。
1:肘内障の検査肢位とプローブの位置
以下はあくまで私個人の方法であり、もっと良い肢位があるかもしれません。
肘内障では被検者にベッドに腰掛けてもらい、坐位で検査します。就学前の幼児が多いため、ぐずりそうな場合、泣きそうな場合、一人で座らない場合は、家人に腰掛けてもらい、その膝上で抱っこしてもらって座ってもらいます。
手台は使用せず、検査肢位は肘関節伸展位、前腕可及的回外位(可能なら60度、最低でも45度)で解剖学的肢位近くとし、その肢位を医療スタッフ若しくは家人が保持します。
肘内障では回外制限のため回外90度の解剖学的肢位が不可能の事が多いので、疼痛自制内の回外位で撮像します。無理に回外90度にしようとすると無用の疼痛を与え、それだけで検査ができなくなってしまうことがあります。
上記のJOAや日本手外科学会の肘内障の解説画像です。
Fig.1
これをエコーで2次元長軸画像として描出します。
Fig.2
肘内障の検査では腕橈関節長軸像を描出しますので、プローブを肘関節運動軸に平行つまり腕橈関節の前面(屈側)に当てる事が基本になります。
あくまで基本であり、この部位の画像が常に肘内障エコー画像のBest Shotになる訳ではありません。
2:肘内障の検査に必要なエコー解剖
Fig.3
プローブを腕橈関節長軸に当てるとこのような画像が出ます。
長軸画像でコメントが無い場合は、向かって左が中枢、右が末梢というのがエコーのお約束です。
Fig.4
腕橈関節屈側の基本的な部位の解説です。
CTとかMRIに詳しい先生方には不要かもしれません。
少しプローブの位置が変わると画像も変わります。
Fig.5
肘内障の描出・読影のポイントは滑膜ヒダ、輪状靱帯、回外筋の3つです。
3:肘内障の診断と整復前後画像
Fig.6
滑膜ヒダを見ます。
左から肘内障の症例1→2→3、上から健側→患側→整復後です。
健側の滑膜ヒダを見て、患側の滑膜ヒダを見たら深部に引き込まれて大きくなっているのが解ります。整復後に健側の位置と大きさに戻ります。
各症例で健側・患側・整復後の流れを目で覚えましょう。
滑膜ヒダだけでも診断と整復の確認ができますので、最低限これだけでも読影できるようにしましょう。
Fig.7
次に輪状靱帯です。慣れると健側を見なくても読影できますが、正常画像を知る事が大事です。
まず橈骨頭の浅層にある健側の輪状靱帯を確認します。1mm弱の厚さがあり、高エコーでfibrillar patternがあります。
肘内障の患側では輪状靱帯が(時に回外筋も伴って)橈骨頭に沿って関節腔に滑り込むため健側の滑膜ヒダに比べ大きくなります。
個別の症例を見ると、症例1では輪状靱帯が橈骨頭に中央で断裂し、症例2では遠位1/3で断裂し、症例3は遠位で断裂し中枢にズレで近位1/3~関節腔に輪状靱帯が存在します。
整復により輪状靱帯はほぼ元位置に整復されています。
Fig.8
回外筋(白い矢印)は低エコーで橈骨の表層に描出されます。
健側に比べ患側は中枢かつ深層に移動(Jサイン)して、エコー輝度が上がり、全体にペンキを塗ったようにボヤケているのが解ります。
整復後は回外筋の位置が元に戻ることもあるし、やや健側と患側の中間くらいの戻りで留まることもありますが臨床症状が取れていたら問題ないようです。
整復後も回外筋高エコーが残存することやJサインは、レジェンド皆川洋至先生が提唱されました。
インチキなホームページ(人の事は言えませんが)では回外筋の位置に輪状靱帯が存在するような画像や解説を散見します。
4:エコー輝度変化
Fig.9
さてもう一度コメントや矢印を削除したエコー画像の全体を見てみると、あることに気がつきます。
健側に比べ、患側は回外筋のみならず全体が高エコーになっています。整復後も同様で、画像全体を見ると、健側を描出している上1/3より患側と整復後の下2/3が全体に高エコーになっています。
もっと詳しく説明すると回外筋だけでなく外側側副靱帯や橈側の筋群全てのエコー輝度が上昇し、コントラストが低下しています。これは(も?)私見であり、この話をすると「肘内障ではそんなのあるわけない」と異端児扱いされます。私は肘内障の症例を見るたびに肘内障では腕橈関節屈側の軟部組織の高エコー化は絶対にあると確信しています。
5:肘内障の意外な臨床像
当院2011年~2012年肘内障27例の臨床像をまとめてみました。
受傷機転(27例)
手を引っ張られる: 8例(30%)
転倒・落下 : 7例(26%)
寝返り、転がり : 2例
車のドアを閉める: 1例
不明 : 9例(33%)
主訴(27例)
肘関節痛 :11例(41%)
上肢痛 : 9例(33%)
上肢を動かさない: 4例
肘~手関節痛 : 1例
手関節痛 : 1例
手痛 : 1例
★これ以外にも親から「肩が抜けた」等の申告も経験します。
典型的な肘内障はエコーが無くても問題ありません。
1.手を引っ張られてから急性発症。
2.肘関節伸展~軽度屈曲位、前腕回内位で上肢をだらりと垂らし、肘(上肢)を動かさない。
3.上肢の腫脹の左右差は無く、他の関節に圧痛無し。
4.徒手整復でクリックを感じ、直後若しくは数分後に症状軽快。
問題は典型的でない肘内障の場合です。
27例中
1.転倒・転落での急性発症 7例
2.患側肘の5mm以上の腫脹 2例
3.徒手整復で整復感無し 3例
4.徒手整復後も疼痛持続 3例
5.前医で徒手整復後疼痛持続 2例
診断も治療効果の判定もエコーが無ければ困難を極めます。
しかしエコー画像で病態を確認できたなら納得の上で診断・鑑別診断・治療効果の判定ができます。
*データ量の制限もあり、静止画像での解説です。
肘内障整復の動画は大阪の大島正義先生が世界で初めて撮像され発表されました。肘内障の病態解明に対し敬意を表します。
当院でも肘内障整復の動画を撮影する時がありますがルーチンには行っていません。
*ここまでは当院での2012年末でのレベルの画像です。
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難治性の肘内障の病態と治療、骨折との鑑別、そして肘内障の病変の正確な存在部位・・これらもエコーで解決できます。
今後これらを時間が取れた時にアップする予定です。
・・・To be continued・・・
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